「AIアナウンサー」年間1000円の衝撃

もうここまで来たか・・・。ナレーターは優れたパーソナリティがないと、難しい時代になっていくのかなぁ…?

ITmedia ビジネスオンライン より

和歌山県の放送局が、放送業界にちょっとした衝撃を与えている。特定非営利活動法人であるエフエム和歌山が「ナナコ」と名付けたAIアナウンサーの運用を開始したからだ。小規模なコミュニティー放送局では大量のアナウンサーを確保しておく余力はない。だがニュースや天気予報といった番組は、深夜や早朝にも必要とされるものであり、こうした時間帯での運用をどうするのかが課題であった。

音声の読み上げシステムは以前から存在するので、機械が記事を読み上げること自体は、それほど驚くべき出来事ではない。だがエフエム和歌山の事例が画期的なのは、音声読み上げシステムを同局の職員が手作りしてしまったことである。

もちろん職員が音声合成システムまで含めて全てを開発したわけではない。同社が選択したのは、米Amazon.com(以下、アマゾン)がクラウド経由で提供しているAIサービスを利用する手法だった。アマゾンは「AWS(Amazon Web Services)」と呼ばれるクラウドサービスを提供しているが、その中には、音声合成や画像分析、対話型インタフェースなど各種のAIサービスが含まれている。

利用者はアマゾンが提供したこれらの機能をクラウド上で利用でき、しかも料金は使った分だけでよい。専用のシステムを自前でゼロから構築する必要がないので、極めて安価に希望のシステムを作ることができる。

ちなみに音声の読み上げ機能は、100万文字当たりわずか4ドル(約450円)だ。極めて安価な料金体系となっている。本1冊を読み上げたとしても0.4~0.8ドル程度で済んでしまう。同局がアマゾンに支払う利用料は年間1000円程度とのことである。

モジュール化されたAIの機能をネット上で利用することで、AIを活用した独自システムがいとも簡単に構築できてしまったわけだ。AWSでは音声合成のほかに画像分析やパターン認識などいくつかAI機能を従量課金制で提供しており、利用者は極めて安いコストで各種AI機能を利用することができる。

AIの機能を自由に売買できる

こうした取り組みを行っているのはアマゾンだけではない。米Googleが出資しているAlgorithmia(アルゴリズミア)という企業は、こうしたAI機能の取り次ぎサービスを提供している。同社のサイトには、多数のAI機能が登録されており、これらの機能を利用したい人は、サイトに登録し、利用料に応じた代金を支払うことで、その機能を自分のシステムに取り込むことができる。

登録されているAI機能は、白黒画像をカラーに転換するものや、文書を要約するもの、画像の類似性を検出するものなど多岐にわたる。筆者もいくつか使ってみたが、指定された形式で指示を送れば、たちどころに結果が返ってくる。事前に必要な準備はほとんどゼロといってよい。

アマゾンと同様、利用料金は極めて安く設定されており、使う側は気軽に利用することができる。一方、各種AI機能を開発した人は、同社のサイトに登録することで、システムの運用や課金、告知といった諸業務を全てお任せできる。自身はAIの開発に専念できるので、次々と画期的なAIモジュールを開発し、このサイトに登録することで利用料を稼ぐAIリッチが多数、登場してくるかもしれない。

情報システムや業務そのものに対する概念が変わってくる

こうしたサービスが普及してくると、情報システムに対する考え方はもちろんのこと、ビジネスにおける業務の概念も変化していくことになるだろう。

これまで企業の情報システムは、ある業務をシステムで処理することを目的に、計画的に開発されるものであった。人事のシステムを作りたいというニーズがあれば、コストと時間をかけてシステムを設計し、開発を行ってきた。

先ほどのFM局のケースに当てはめるなら、音声読み上げのシステムを作りたいといったニーズがあった場合、まずシステム会社に相談した上で見積もりの作成を依頼。契約後は時間をかけて基本設計を行い、システムを開発していた(実際、先ほどのFM局は、システム会社に見積もりを依頼したものの、価格が高すぎて導入を断念したそうだ)。

だが高度なAIシステムが、ネット上で極めて安価に、しかも何の準備も必要なく利用可能になると、情報システムに対する基本的な概念は180度変わる。業務を進めながら必要に応じて必要なシステムを作り、使った分だけ利用料を払うといった使い方が現実のものとなってくるのだ。

ある部署が顧客に関するデータをとりまとめたとしよう。そのデータを高度な手法を使って分析したいというニーズが出てくれば、その場でシステムを構築してデータを分析してみることが容易に実現できてしまう。会社内にこうしたAIサービスを連携させる要員が1人か2人いれば、たいていの業務はその場でシステム化できてしまう可能性がある。

あからじめ計画を立て、段階的に業務のシステム化を進めていくという従来型の発想は、近い将来、消滅しているかもしれない。